演劇鑑賞会・市民劇場の皆様へ

新型コロナウイルス禍の中、皆様いかがお過ごしでしょうか。例会の中止や延期のお話を聞き、７月から始まります前進座公演『東海道四谷怪談』もどうなるかとても不安ではありますが、私の思いを綴らせて頂きます。

私は14歳で前名の嵐市太郎を名乗り、そこからが女形修行の始まりでした。しかし最初の10年間は全く修行の最初で、その舞台はとても褒められた出来ではありませんでした。しかし『俊寛』の千鳥を勤めさせていただいたおかげで、本当の女形人生が始まりました。この時の日々の公演はまさに「修行」で、とてもお金を頂けるようなものではありませんでしたが、各地の演劇鑑賞会・市民劇場さんの例会を重ねる中で、ようやく女形人生のスタートラインに立たせて頂けたという思いです。

今回上演いたします『東海道四谷怪談』は、私が正式な劇団員となって最初の舞台でした。1982年８月の国立劇場公演です。伊藤家の孫娘お梅にて花道からの登場でしたが、初めての大劇場で、その舞台の大きさと花道の長さに大変驚いた事を思い出します。祖父・先代国太郎のお岩は若輩のまだ何もわかっていない私にも鬼気迫るものを感じさせ、このお芝居はただの怪談物という訳ではないのだなという事を強く感じました。そしていつの間にか「演じてみたい役」の第一位となりました。それが念願叶って2016年５月国立劇場にて初役で勤めさせていただけまして、終わった後はちょっと「四谷様ロス」となってしまいましたが、本年は7月の首都圏ブロックで初日を開けさせていただき、８月近畿ブロック、９～10月中国ブロック、11～12月九演連と各地の演劇鑑賞会・市民劇場の皆さんにご覧いただける事となり、これまでに15ステージを勤めさせていただきましたが、今年だけで100ステージ以上を積み重ねる事が出来ます事を大変ありがたく思っております。若き日の『俊寛』の千鳥同様に、各地の会員さんに私の「お岩さん」を育てて頂き、祖父のお岩に少しでも近づけるように精進したいと思っております。来年2021年にも中部北陸ブロックの例会が決まっております。

新型コロナウイルスの猛威の中、残念な事に前進座５月国立劇場公演が中止となってしまいましたが（前進座公演『ひとごろし』の北海道ブロック７月例会も延期となってしまいました）、この空いた時間で更にお岩を深めていければと存じております。公演の中止という出来事は私自身にとりましても初めての事で、先の見えない不安ばかりですが、この困難は必ず乗り越えられます。伝統芸能に従事している皆さんは一様に「これまで幾多の戦火・疫病・災いも伝統芸能は乗り越えて、その灯をともし続けてきました」と言っております。この禍が収束した時こそ演劇の持つ力が希望と勇気を与えてくれる・お届けできるものと信じて例会に向けての準備をしてまいります。そして皆様と心の底から安心して笑顔で再開できます日を楽しみにしております。
今しばらくの辛抱です。一緒に乗り越えていきましょう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2020年５月１日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　前進座・河原崎國太郎